◆ 2007.04.19 Thu

或るピアニストとの恋

Clara Fruhstuck…懐かしい名前

クララと出会ったのは僕が高校1年の時のこと、全国高校選抜オーケストラに参加していた折にベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番で共演したのが最初だった。

彼女とは同い年だからお互いに16歳だったということになる。しかし、あの頃の記憶は正直あまり残っていない、僕が父を亡くした年だったから全ての物事を幻想のように捉えていた時期だったのだ。

それから高校2年のときにはモーツァルトのピアノ協奏曲第21番で共演していたわけだが、このときも彼女が特別な存在ということもなくて、ただのオーストリアのおてんばな女の子というイメージだけが残っていたのを覚えている。なにしろ、このくらいの年齢の時は日本人とのありふれた恋愛に夢中になるのが普通なのだ。

しかし高校3年生の春、お互い18歳になり肉体的にも精神的にも一定の円熟を見せ始めた時期だ。彼女の生まれ故郷、アイゼンシュタットのホールで彼女と1年ぶりに再会したときに、その「衝動」は突然に起きた。当時のことを綴った「ウィーンの風」の中で、僕はその時に受けたイメージを次のように記している。

― クララの雰囲気が去年より女らしくなっていてなにか特別な色香を放っていた、その体はヨーロッパの女性特有のふくよかさがありとても美しい。

去年は子供っぽい印象を感じていたが、一年でこうも変わるのかと驚いた。ヨーロッパの女性はある年齢を迎えると急に大人びるようだ、クララもその例外ではなかった。

この時に僕は間違いなく彼女に恋をした。それからは暇があれば彼女を誘い二人きりで話し込んだり、自作の曲を贈ったり、薔薇の花束を贈ったり…日本人とは思えぬ積極的なアプローチを重ねて僕は彼女に自分の想いを伝えたわけだ。今思い返すと自分で赤面しそうになるくらいの情熱だったと思う。これが若さか。

最終的には彼女の両親にまで認められるようになり、クララとはそれなりの関係になれたのだけれど。当然ながら僕は日本に帰らなければならなかったわけで…。分かりきっていたことなのにいざその時になってどうすることもできない自分がやるせなくて、本当に自分の無力さに絶望したりもした。

日本に帰ってからもEメールのやり取りをしていたが、デジタル化された「想い」にその寂しさを埋めるだけの安息など感じられるはずもなく、少しずつその親密な関係は消えていくことになる。

なんだかんだいって、飛行機で13時間という「距離」は当時の僕には脅威だったし。普通の遠距離恋愛とは比べ物にならないくらいハードルが高すぎたのだ。

当時、周囲にはからかわれるばかりだったし、自分から積極的にからかわれるように仕向けることで自分自身その真剣な想いを茶化そうとしていたところがあった。

でも、今だから本音を言うと、当時の僕は真剣に交際しようとしていたし結婚も真剣に考えていた。決して好奇心と若さだけの表面的な恋ではなかったことをここに改めて記しておきたい。



こんな文章を唐突に衝動的に書いてしまった理由を記しておこう。それはオーストリアに行っていた友人から2005年にリリースされたクララのCDを頂いたのがきっかけだ。期せずして彼女の演奏に触れて、僕は忘れてしまっていた(或いは忘れようとしていた)色々なことをはっきりと思い出した。

Clara Fruhstuck / 「Die Betrachtung Des Sterns」

01: Jeno Takacs / Klangstudie
02-03: Bach / Chromatische Fantasie und Fuge BWV 903 D-Moll
04: Messiaen / Regard De Letoile "Die Betrachtung Des Sterns"
05-07: Beethoven / Sonate Nr.26 Es-dur op81-a
08: Jeno Takacs / Klange Und Farben
09: Brahms / Intermezzo A-Moll
10: Brahms / Intermezzo A-Dur
11: Brahms / Ballade G-Moll
12: Brahms / Intermezzo F-Moll
13: Brahms / Romanze F-Dur
14: Brahms / Intermezzo Es-Moll
15: Jeno Takacs / Nachtklange
16: Franz Liszt / Un Sospiro
17: Jeno Takacs / Echo
18: Garish / Tanzer

クララと同じブルゲンランド州出身の作曲家タカーチュ、そしてメシアンの現代作品と、ベートーヴェン、ブラームス、リストの比較的叙情的な作品が選ばれている。そして最後のTanzerに意表を突かれた気分。色々ないっぺんにやりたがるクララの好奇心旺盛な性格がわかりやすく出ている選曲。いつの間にかクララの公式WEBサイトまで作られていて驚いた。horprobenから視聴もできるので興味のある方は是非。

http://clarafruehstueck.com/

公式サイトで彼女の姿を久しぶりに見て、「人間は公平に年を重ねていくのだなぁ」としみじみ。クララはお母さん似だな。いつかまた彼女とは共演したい。とりあえず今度ヨーロッパに行くことがあったら、こっそり会いにいこうかと思っている。もちろん彼女がそれを望んでいるならばの話だけど。

5年という莫大な時間は果たして二人の間の何を消し去り何を残したのか、そんなの実際行って面と向かって確かめてみないとわかんないじゃん。
◆ 2007.04.08 Sun

Beck Live@ZEPP TOKYO

今日はBECKのライヴ@ZEPP TOKYOに行ってきた。

生BECKは本当に楽しみだった、しかしながら1階のスタンディングなのでこの病み上がりの体で持つのか実は不安だった。ウザいモッシュのタックルでも食らおうものならウィルス攻撃で殺しちゃうかもしれない。今日のライブは死人が出るぞ。

リハが長引いたらしく、開場が30分くらい遅れていたので外でビールを買って乾杯。風邪薬と一緒に飲んだので気持ちよくなった(大変危険な行動なので絶対に良い子は真似しないように!)。会場に入るととりあえずライブTシャツを購入、水色のポップなやつを買いました。そんなこんなでライブスタート。

【セットリスト(括弧内は収録アルバム)】

1.Loser (Mellow Gold)
2.Black Tambourine (Guero)
3.New Pollution (Odelay)
4.Landslide (The Information)
5.Girl (Guero)
6.Time Bomb (未発表曲)
7.Rental Car (Guero)
8.Motorcade (The Information)
9.Mixed Bizness (Midnight Vultures)
10.Que Onda Guero (Guero)
11.Nicotine & Gravy (Midnight Vultures)
12.Hell Yes (Guero)
13.Information (The Information)
14.Nausea (The Information)
15.Minus (Odelay)
16.Think I'm In Love (The Information)
17.No Complaints (The Information)
18.Devil's Haircut (Odelay)
19.Paper Tiger (Sea Change)
20.Lost Cause (Sea Change)
21.Jack-ass (Singles 1994-2006)
23.Wave of Mutilation (Pixies cover)
24.Lonesome Whistle (Hank Williams cover)
25.Lonesome Tears (Sea Change)
26.The Golden Age (Sea Change)
27.Clap Hands (Guero)

[encore]
Puppetron "Bekzilla" (puppet film)
28.1000BPM (The Information)
29.Where It's At (Odelay)
30.E-Pro (Guero)

こんな感じで正にてんこ盛りでございました。(リスト間違ってたらゴメン)

ライブがはじまると、まずパペットが登場して、ステージ中央奥の小さなステージで演奏しはじめる。しかも曲はいきなり彼らのデビュー曲にして最高傑作の誉れ高い「looser」(!)、これにはちょっとビックリした。そこに本物のメンバー達も登場!生ベックは罪なくらいカッコ良かった、あの揺る巻きウェーブにやられた。

最初は前から4列くらいにいたけど、少しずつ間を縫って前から2列目くらいまで行ってみた。病み上がりなのに張り切りすぎな自分。ベックとの距離はもう2メートルもないくらい、とにかく近い、手を伸ばしたら届きそうなくらい近い。男でありながら、男に萌えるという稀有な体験をしてしまった。ぐふふ。

セットリストを見てわかるように、The Information中心というわけでもなく今までの代表曲を満遍なくやってくれた感じだった。「正直、Informationあんまり聴いてないんだよね…(笑)」といってた友人も大満足してた、僕も正直Infomation以前のアルバムの方が思い入れがあるので嬉しかった。

後半のお馴染みのteble setと共に始まるアコースティックなベックも良かった、テーブルで食事をしているベック以外のメンバーが途中からフォークやナイフで食器を叩いてパーカッションを始めたりコーラスし始めたりとやりたい放題な感じが良い。でも泣けたなあれは、Sea Changeの曲聴くとちょうど昔彼女と別れたときのこととか思い出してしまうのだよ。Lonesome tearsとかもう、やばすやばす。(病気)

アンコール導入に上映されたパペットによるムービーも傑作だった。「Beckzilla(笑)」が日本の街を破壊しまくるという内容。ゴジラのパロディなんだけど、ベックが火を噴いたりしててとにかく面白かった。(ライブやる国ごとにいろんなバージョンがあるらしく、youtubeで検索するとこんな感じで色々見れる)そのあとは熊の着ぐるみ着て1000BPM歌ったりとやっぱりやりたい放題!全体として見ているだけで楽しめるエンターテイメント性の高いステージだった。

大満足。また行こうっと!
◆ 2007.04.05 Thu

ベートーヴェンの呪縛

最近なんだかベートーヴェンを振る機会が妙に増えてきた。

最近振りに行っている大学オケではべト5に取り組んでいるし、アマオケではべト3を振るし、なんだかいつの間にかベートーヴェンな日々になっています。しかもどちらもべーレンライター版、みんな新しいもの好きだね。こういうところの柔軟さはプロも顔負けだと思う。

現代のベートーヴェンの解釈はロマンチックな表現を避ける傾向がある。いたずらにヴィブラートをかけたりはしないし、どちらかというと脂身が少なく赤身が多い「筋肉質な演奏」が流行っているなぁと最近の演奏を聞くたびに思う。この業界って厳格なようで、実は結構「ブーム」みたいなものがある気がする。

ブームというものはファッションを考えればわかるとおり基本的にループするものだから、このピリオド的な演奏もそのうち流行らなくなるんじゃないかなぁなどと考えたりもする今日この頃。また昔のような、ロマン的情緒たっぷりのベートーヴェンが再び演奏会で聴かれる日はそう遠くないかもしれない。(*1)

でもその口火を切るのって勇気がいるなぁとも思うわけだ。今そういう演奏をすると「古臭い、時代遅れ」なんて言われることは目に見えているわけで。でもそんな周りに影響されることなく、「自分のやりたいこと」をちゃんと持って貫こうとする人間が現れたときに何かが変わるんだと思う。

(*1) 無論、ベートーヴェンに関してはワーグナーの時代あたりから驚くほど長い間、ロマンチックでコテコテの演奏スタイルが続いてきたわけだ。これはもはや「流行」なんてレベルを越えて、ある種の「呪縛」のようなものになってしまっていたと思う。実際、以前の伝統的な演奏スタイルの方がしっくりくるから好きという人は未だに多いわけだ。私たちはベートーヴェンの「ある一面」にあまりにも長く触れていたから、いつの間にかステレオタイプが形成されているのだ。


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